吉野家の新牛丼は、伊藤ハムのグランドアルトバイエルンになれるか?
Photo:Italian Sausage Braising in Beer By wickenden
高くても売れる食べ物にとても興味があり、それに関する記事にはついつい目が言ってしまうのですが、3月下旬に次のような小さな記事がありました。
店頭価格は100円以上も上がったが、よく売れている。消費者が価格だけで選んでいない証拠だ。顧客に選ばれる商品を今後も開発しないと、自社を成長させられない(2014年3月26日付 日経新聞朝刊)
グランドアルトバイエルンという商品が売れているようです。グランドアルトバイエルンとは、アルトバイエルンというあらびきソーセージの後継品。
伊藤ハムは3月、主力のソーセージ「アルトバイエルン」を全面刷新する。量を増やすほか、熟成方法や塩を変えて味を良くする。商品名も改める。希望小売価格は2袋で550円(税抜き)で、従来品に比べて30円高い。4月の消費増税後を見据えて、商品の品質を高める。(2014年1月16日付 日経新聞朝刊)
消費増税を見越したリニューアル商品です。単に消費増税分を添加するのではなく、品質を向上させた新商品として投入し、値上げをするというパターンです。1月の記事を見ると、「従来品に比べて30円高い」と説明されていますが、3月の記事では「店頭価格は100円以上も上がった」とされています。つまり、特売頻度を下げたにも関わらず、売れているということがわかります。グランドアルトバイエルンは、高くても売れているのです。
品質改良した商品を投入して値段を上げるというパターンは、吉野家も牛丼で取ります。では、吉野家も伊藤ハムのように品質改良による値上げに成功するのでしょうか。私は、そうとは思えません。その理由をまとめると、次のようになります。
【グランドアルトバイエルンが成功して吉野家の新牛丼が失敗すると思う理由】
[1]グランドアルトバイエルンは、家族など団体での食事に食べられるので、価格よりも美味しさが優先されやすいから。一方の新牛丼は、一人で食べるメニューなので、価格優先になりやすい。
[2] 伊藤ハムには「まるごと美味しいシリーズ」「ポークビッツ」などの量販商品が他にもあり、グランドアルトバイエルンで量を追わなくていい。一方、吉野家は新牛丼で売上を稼ぐ必要があり、販売数量の減少は売上に大きく響くから。
1は、ターゲットの違いに起因しています。グランドアルトバイエルンを一人で食べる人は、ほとんどいないでしょう。家族やパーティーで食べる人がほとんどであり、価格も重要ですが、それ以上に品質(美味しさ)が優先されます。だから、少々高くても売れるのです。一方の新牛丼のターゲットは、サラリーマンやシニアのお一人様。品質よりもまず価格です。だから、吉野家は昨年4月に牛丼の大幅値下げに踏み切ったのでしょう。少々高ければ、牛丼やその他ファストフード・コンビニの競合品に切り替えられるのです。
2は、商品ラインナップに関すること。伊藤ハムは、グランドアルトバイエルンを品質で売る方針であり、工場の稼働は他の量販品で賄うという方針のようです。一方の吉野家は、新牛丼で売上を稼ぐ必要があります。新牛丼の販売数量が減少すれば、会社の屋台骨が揺らぐ可能性さえあるのです。そういう意味では、新牛丼はヒットした牛すき鍋膳とは全く立ち位置が異なります。
ネーミングにしても、「グランドアルトバイエルン」は高級感のある名称ですが、吉野家の牛丼はそのまま。品質を改善するにしても、見た目にはわかりません。
一言で言えば、いわゆる牛丼とあらびきソーセージとは、消費者が期待するコトが違うのです。
☆今日のまとめ☆
既存品よりも100円高いグランドアルトバイエルンが売れるのは、価格よりも品質を優先する家族や団体で消費されるからである。
また、伊藤ハムには他の量販品によって売上を稼ぐことが可能な点も、グランドアルトバイエルンをじっくり売れる要素だろう。
一方の吉野家の新牛丼は、サラリーマンやシニアのお一人様がターゲットのため、品質よりもまず価格で選択される。
また、新牛丼で売上を取る必要があり、新牛丼の失敗が会社の屋台骨へ影響しかねない。
WSJを読むには、基本的な英単語を知っていなければなりません
☆ 今日のこぼれ話☆
グランドアルトバイエルンの競合品は、各チェーンのPB商品なのでしょう。
最近のPB商品は美味しいですから。