サッポロがイオン専売品の供給に踏み切った理由とは?
※ 「アメリカ経済事情」に関しては、サイト「ウォール・ストリート・ジャーナルから見た起業のヒント」にて更新しております。今後、ryotarotakao.comでは、メルマガには掲載しない内容を執筆する予定です。
以前の記事で、イオンが専売のサッポロ製第三のビールを販売した理由について述べました。ただ、イオンが、いくら大手ビールメーカーの専売品を販売したくても、この要望に応じてくれる大手メーカーが無ければ実現しません。今回はサッポロがこの要望に応じたのですが、サッポロがなぜ応じたのか。その理由について考えたいと思います。
【サッポロがイオン専売品の供給に踏み切った理由】
[1] 宣伝広告による販売効果が低いから。
[2] 工場稼働率が低下しているから。
[3] 第三のビールのシェアが低く、カニバリの影響は小さいから。
[4] 利益率の大きな低下に結びつかないから。
1について、上場食品メーカーの四半期決算を見ると、多くのメーカーで販促費の積み増しによる利益圧迫の影響が出ていました。以下、日経新聞からの抜粋です。(日経新聞電子版の申し込みはこちら)
[エスビー食品]
2日、2013年3月期の連結純利益が、前期比23%減の10億円にとどまりそうだと発表した。従来予想を10億円下回り、減益予想に転じる。主力のカレーやシチューのルウなどが期初予想に比べ伸び悩む一方、販促費が増え利益を圧迫する。(2012年11月3日日経新聞朝刊より)
[森永製菓]
森永製菓は2日、2013年3月期の連結経常利益が前期比18%増の37億円にとどまりそうだと発表した。従来予想を2億円下回る。販促費を増やすが、売り上げが想定を下回っているため。固定資産の売却益が寄与し、純利益は85%増の20億円を据え置く。(2012年11月3日日経新聞朝刊より)
[キリン・アサヒ・サッポロ]
サッポロホールディングスが7日、2012年1~9月期連結決算を発表し、上場ビール大手3社の決算が出そろった。いずれも経常利益が前年同期に比べ減った。ビールや清涼飲料の販売競争が激しく、販売促進費や広告宣伝費が膨らんだ。(2012年11月8日日経新聞朝刊より)
つまり、従来よりも広告宣伝などの販促効果が薄れているから、思うように売上が伸びず、その結果利益が減少しているのです。ならば、販促費を掛ける代わりに、納入価が低い小売専売品を作って売場を確保した方が、利益が上がると考えても不思議ではありません。特に、ビール業界4番手のサッポロは、なかなか売場を確保できません。全国に多数の店舗を持つイオンの売場を確保するために、自ら専売品の提案を行ったのかもしれません。
2について、夏ごろからサッポロの第三のビールがかなりの安値で販売されていました。麦とホップの350ml24缶入りが、2400円以下で販売されている売場を何度も目にしました。昨年までも、リカーショップやホームセンターでたまに見たことはありましたが、スーパーで見たことはありませんでした。今年は、普通にスーパーで販売されていたことを覚えています。これほどの安値で販売しなければならないほど在庫がたまり、工場稼働率の低下を招いていたのかもしれません。ならば、イオンの専売品を製造することで、工場の稼働率を上げようとしても不思議ではありません。
3に関して、イオン専売品を製造することで懸念されるのは、自社ブランド品とのカニバリ。サッポロ以外の大手ビールメーカーは、これを恐れて専売品の専売に踏み切れないのだと思います。セブンイレブンの専売品としてキリンがビールを提供していますが、このビールはプレミアムビール。キリンはプレミアムビールを持っていないので、カニバリはほぼ無いと言ってもいいでしょう。その他の大手ビールメーカーもセブンイレブン専売品を製造していますが、どれもプレミアムビールで、価格で勝負する量産品ではないために、カニバリの影響はほとんどないかと思います。一方、サッポロのみがき麦は、350mlで100円という大量生産タイプ。もし、キリン・アサヒ・サントリーがこの価格帯の専売品を製造すれば、のどごし生・クリアアサヒ・金麦の売上に大きく悪影響を及ぼします。一方、サッポロの第三のビールは、麦とホップとドラフトワン。第三のビール市場でのシェアは、さほど大きくありません。みがき麦を販売することで、カニバリは避けられませんが、もともと大きなシェアを持っていないために、イオンでの売場確保・売上拡大に比べれば、カニバリによる悪影響は小さいかと思います。シェアが小さいサッポロだからこそできる、荒技なのです。
4に関して、サッポロの選択肢として、わざわざみがき麦という銘柄を一つ増やさなくても、麦とホップ・ドラフトワンの350ml缶を100円で販売することも、あるかと思います。ただし、もしイオンで麦とホップまたはドラフトワン350ml缶を100円で販売すれば、他の小売チェーンからも値下げ圧力がかかることは、容易に推測できます。その結果、サッポロの第三のビール部門の利益率は大きく悪化します。しかも、100円で販売するからと言って、売場の確保が約束されたわけではありません。従来通り、競合3社との売場の確保をめぐる戦争は続くことになるので、テレビCMや店頭POPなどの販促費は従来通りかかることになります。100円に下げることで販売数量・売上金額は伸びるものの、販促費もそれなりにかかるので、利益率のみならず利益額も下がることが予想されます。これらを考慮に入れて、従来のNB商品はそのままに、新たにイオン専売品・みがき麦の製造・販売に踏み切ったのだと思います。
サッポロがイオン専売品を引き受けたことは、売場を確保することがいかに難しくなる一方で、目立つ売場を確保できなければ売上拡大は見込めない販売状況を示しているかと思います。消費財メーカーは、たとえ知名度はあっても、市場シェアが下位に位置するならば、量販ルートでは生き残れない時代なのかもしれません。
☆今日のまとめ☆
サッポロがイオン専売品を引き受けたのは、店頭での売場確保でしか売れない時代を表しているのかもしれない。
売場確保の難しい下位メーカーは、いくら知名度があっても、量販ルートでの販売拡大は難しいのではないか。
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☆ 今日のこぼれ話☆
みがき麦のレビューをネットで調べたところ、麦とホップの味に似ているとのコメントを見つけました。
麦とホップは好きな味なので、今度試してみようかと思います。
楽しみです。
☆サイゼリア創業者 正垣泰彦の言葉☆
l 「売上が増えなくても、無駄をなくし、経費を削れば利益は増える。経営者は日頃から、売上が減っても利益が増える店を目指すべきで、売上が減って利益が出ないから困るというのは、今まで無駄なことをたくさんしていたというのに等しい。
」(『おいしいから売れるのではない 売れているから美味しい料理だ』より)
※創業者・経営者・商売人の心に残る言葉、元気になる言葉を紹介しています。