牛丼を値上げした吉野家の本音とその成否
吉野家は、消費増税を前に価格改定を発表しました。
吉野家ホールディングス(HD)は11日、消費増税に合わせ4月1日に牛丼店「吉野家」の価格を引き上げると発表した。牛丼の並盛りを280円から300円、「牛すき鍋膳」を580円から590円にするなど10~20円ずつ値上げする。(2014年3月12日付 日経新聞朝刊)
消費税率が上がるのだから、税込み価格が上がるのは仕方がないことです。しかし、実際の値上げ幅を見る限り、消費増税だけが価格改定の理由ではありません。リリース(PDF)にもある通り、消費増税と原材料コスト上昇が価格改定の理由になります。ただ、その上げ方が、一般的な価格改定方法とは異なります。
【吉野家と一般的な価格改定方法の違い】
[吉野家の手法]価格競争の激しい牛丼価格は消費増税分以上に値上げ
[一般的な手法]価格競争の激しい商品は消費増税分未満の値上げ
一般的な手法の好例は、ミネラルウォーター。コカ・コーラは、いろはすの価格は据え置き。サントリーも、天然水を据え置きます。それは、ブランドや品質による差別化が難しく、価格競争の激しいカテゴリーに属するからでしょう。また、ミネラルウォーターは、利益率が高いために、価格を据え置いても収益にはさほど大きな影響を及ぼさないと考えられたのかもしれません。
吉野家のメニューで、このカテゴリーに属するのは、牛丼。その牛丼は税込価格が280円から300円に上昇します。280円の税抜き価格が267円だから、単純に消費税上昇分だけ載せると、税込価格は288円(切り捨て)になるはず。切り上げても290円なのですが、それを300円に引き上げるということは、原材料コストの負担が大きくのしかかっていることを示しています。実際、吉野家の第三四半期決算短信(PDF)を見ると、営業利益が大幅に減少していることがわかります。牛丼の大幅値下げにより、通常ならば増収増益になってしかるべき。しかし、減益になっているといことは、値下げした牛丼の売上が思ったほど伸びないばかりか、利益率が非常に低く儲けがほとんどないことを示しています。
だからこの機会に増税分以上に値上げしたのですが、これがうまくいくかどうかはかなり不透明と言わざるを得ません。その理由は、以下のとおり。
【吉野家の牛丼値上げがうまくいくと思わない理由】
[1] ライバルのすき家が逆に値下げしたから
[2] 200円台という割安感が消えたから
[3] 牛すき鍋膳での集客が難しくなるから
1について、消費増税にも関わらず、すき家は牛丼価格を10円値下げしました。おそらく、吉野家や松屋が据え置くと考えて、値下げしたのでしょう。それでもインパクトがありますが、吉野家は300円台にまで値上げしたので、その差は10%にまで開くことになります。消費増税後は消費者の節約志向が強まることは避けられないので、この価格差は集客に大きく影響し、客数が大幅に減少する可能性があります。
2について、値上げ後の価格が290円ならば、まだライバルチェーンと争えたかもしれません。300円になれば、それは300円台であり、200円台と他社とは次元が違ってきます。299円と300円の差はたった1円ですが、消費者心理では200円台の299円の方がずっと安く感じるのです。200円台だからちょっと食べようかという、ライトユーザーが一気に離れる可能性があります。
3について、すき家・松屋の牛すき鍋膳に似た商品を投入したので、牛すき鍋膳での集客力はかなり落ちることが考えられます。また、季節柄暖かくなれば、温かさをウリにしたすきやき鍋定食の魅力は落ちることになります。牛すき鍋膳の魅力低下と牛丼の値上げにより、客数が大幅に減少する恐れがあります。
このような理由が考えられる中で、吉野家が280円の牛丼を300円にまで引き上げたのは、よっぽど利益率が低かったのでしょう。この機会に値上げしないと値上げするチャンスはないと、判断したのだと思います。また、牛すき鍋膳の成功により、価値さえ高めれば、高単価商品でも売れるという自信が生まれたのかもしれません。しかし、消費増税により、消費者の財布の紐が引き締まることは間違いなく、これまでのように高単価商品が売れるというよりも、節約志向が高まり低価格商品への支持が高まるものと思われるので、牛丼が300円台にまで上昇した吉野家の競争力は、大きく削がれるのではないでしょうか。少なくとも、牛丼に代わる低価格の商品(豚丼など)を期間限定で導入するなどの工夫がなければ、既存店売上が大きく減少しかねません。
☆今日のまとめ☆
すき家の牛丼値下げや牛すき鍋膳の魅力低下を考えれば、牛丼を300円台に値上げした吉野家の競争力が大きく低下する恐れがある。
消費増税後は、節約志向の高まりを避けられないから。
WSJを読むには、基本的な英単語を知っていなければなりません
☆ 今日のこぼれ話☆
4~6月の客数減は織り込み済だと思います。
問題は3ヶ月後の7月。
ここで客数の落ち込みが和らいでいれば、吉野家の価格改定は成功と言えると思います。
ただ、増税後の節約志向は相当強いと思いますよ。
中々当たらないものですね
吉野家HD、“値上げ効果”で増収増益 15年2月期
http://bizmakoto.jp/makoto/spv/1504/10/news136.html
コメントありがとうございます。
増税時の値上げでは、牛肉の品質向上も一緒に行ったために、これが支持されたのでしょうか。
8月以降は、既存店売上がプラスに転換。
ただ、12月の2割以上の値上げでは客離れが結構深刻で、直近3月でも既存店売上はマイナス。
しかも、客数のマイナス幅は拡大しています。
吉野家の増収は、値上げよりも寒い冬の気温による鍋売上増が要因でしょうか。
今期の重点項目にも、コンロ商品の新規開発や鍋のブラッシュアップが挙げられています。
きれいな店舗が増えていることも、女性客など新規顧客獲得に寄与しているのかもしれませんね。