マルちゃん正麺の東洋水産がセブンゴールドの金の麺を製造する理由とは?
先日、テレビ大阪のWBS(ワールドビジネスサテライト)を見ていると、興味深いニュースが目に飛び込んできました。
セブン&アイ・ホールディングスは16日、高価格プライベートブランド(PB=自主企画)「セブンゴールド」から即席袋麺「金の麺(醤油味)」を21日に発売すると発表した。東洋水産に製造を委託し、同社のヒット商品「マルちゃん正麺」のような生麺風のコシとのどごしの良さを特徴にする。(2013年5月17日付 日経新聞)
袋麺市場拡大の起爆剤になったマルちゃん正麺。このイノベーティブな商品を生み出した東洋水産が、セブン&アイ・ホールディングスのPB商品を製造するそうです。商品名は、金の麺。高級PB食パンが金の食パンという名前だったので、高級PB商品・金シリーズの第二弾となるのでしょうか。
驚きのニュースなのですが、冷静に考えるととても不思議な提携なのです。というのも、東洋水産は、すでにヒット商品であるマルちゃん正麺を持っています。この商品は、大部分、いやほぼすべてのチェーン型スーパーで販売されています。恐らく、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨカドーやヨークマートでも、販売されていることでしょう。しかも、コンビニのセブン-イレブンでも販売されているのです。既存の販売先に、既存商品の代わりとなるPB商品を売る必要が本当にあるのでしょうか。東洋水産には、金の麺を製造することにより、次のようなデメリットが生じます。
【東洋水産が被る金の麺製造によるデメリット】
[1] マルちゃん正麺と金の麺がカニバリすることにより、マルちゃん正麺の製造数量の減少。その結果、ユニット当たりの製造コスト上昇。
[2] 種類が増加することにより、資材管理・在庫管理コストの上昇。
1について、金の麺が発売されることにより、恐らくセブン-イレブンの棚からマルちゃん正麺は消えると思われます。東洋水産にとっては、セブン-イレブンに関する限り、金の麺分の売上が増えると同時に、マルちゃん正麺の売上が減ることになります。これならプラスマイナスゼロなのですが、マルちゃん正麺の製造数量が減少することで、規模の経済の恩恵が少なくなります。つまり、マルちゃん正麺一袋当たりの製造コストが上昇するのです。
2について、東洋水産は、金の麺の製造を受託することにより、製造する商品の種類が増えることになります。これにより、資材管理・在庫管理の業務が各一つ増えることになり、コスト上昇につながります。
このようなデメリットは、避けることはできません。業務の簡素化・効率化によって、コストの上昇分を抑えることはできますが、あくまで上昇分を小さくするのみ。小売店からの値下げ圧力が依然強い中で、コストが上昇するというのは、大きなデメリットなのです。大きなデメリットを被ってまで、東洋水産が金の麺を製造するのは何故なのか。その理由を、推測してみました。
【東洋水産がセブンPBの金の麺の製造を受託する理由】
[1]セブン-イレブンの売上伸長率がかなり大きく、セブン-イレブンの意向を無視できないから。
[2]競合商品である麺の力・日清ラ王との競争が激化し、売上が低迷しているから。
[3]値崩れを防ぎつつも、シェア拡大を図れるから。
1に関して、これはセブン-イレブンの販売力が大きな要因です。コンビニで400円近くもする5袋入りの袋麺がそれほど売れそうには思えませんが、セブンの集客力からすれば売れても不思議ではありません。その販売力のあるセブン-イレブンが、競合するPB商品を発売するとなれば、東洋水産にとってその商品は脅威となります。コンビニの売場面積は小さいので、マルちゃん正麺が棚から外される可能性もあるわけです。ならば、売場確保のために、競合するだろうPB商品の製造を受託しても不思議ではありません。これは、大手メーカーがPB商品の製造を受託する時の、よくあるパターン。東洋水産は、カニバリよりも売場確保を優先したのだと思います。
2に関して、よくよく調べると、実態とは異なります。こちらの報告書(PDF)によると、麺の力・日清ラ王は発売当初は大きく売れたものの、それ以降は売上が下落傾向にあるそうです。一方、マルちゃん正麺は、競合商品の登場により、プレミアム袋麺の知名度が広がり、逆に売上を拡大。グラフを見る限り、マルちゃん正麺は一人勝ちの状態なのです。だから、競合するNB商品の登場は、PB商品の製造受託とはほとんど関係ないと思います。
3に関して、プレミアム袋麺市場で一人勝ち状態のマルちゃん正麺ですが、シェアが伸びるに従い売上の伸びは鈍化してきます。売上拡大のための方法としてよく採られるのが値下げ。しかし、そもそも比較的単価の高いレミアム袋麺は、値下げしてもそう売上数量が拡大するものではありません。逆に、値下げしたために、総売上金額が減少することもありえるのです。さらに、マルちゃん正麺は、そもそも値下げせずとも売れる商品。値下げをすれば、値崩れして利益率が大きく減少するリスクまであるのです。そこで、値下げ以外の売上拡大策として、PB商品の製造を受託したのではないでしょうか。
金の麺の価格は、同じ東洋水産の名前が入っていても商品名が違うので、マルちゃん正麺の価格にほとんど影響しません。一方で、マルちゃん正麺よりも価格が低い(5食入りで345円)ので、マルちゃん正麺よりも安く販売されることの多い麺の力や日清ラ王に対抗することができます。マルちゃん正麺という金の卵の値崩れを避けるとともに、競合品からシェアを奪えるという、2つのメリットがあるのです。
金の麺の事例からは、販路確保の重要性とともに、値崩れ(コモディティ化)の怖さを読み取ることができます。
追記(2013年6月10日)
aさんからのご指摘により、一部削除いたしました。
☆今日のまとめ☆
東洋水産が、マルちゃん正麺と競合し兼ねない金の麺の製造を受託したのは、コンビニという販売力のある販路を確保するとともに、マルちゃん正麺の値崩れを避け、プレミアム袋麺市場でのシェア拡大を図るためである。
マーケティング・ビジネスのヒントに関するブログも書いています
WSJを読むには、基本的な英単語を知っていなければなりません
☆ 今日のこぼれ話☆
マルちゃん正麺・麺の力は食べましたが、日清ラ王はまだ食べていないことに気づきました。
恐らく、生麺の価格が相当低くなったからでしょうね。
2食150円前後で食べられるので、プレミアム袋麺よりも安い場合があるのです。
それでも売れるマルちゃん正麺は、本当にスゴイと思います。
セブンゴールドシリーズは、第2弾どころか、
食パンが出る前にカレーや中華などたくさん出ていますよ。
aさん
コメントありがとうございます。
「金の~」という名称は、ほぼすべてのセブンゴールドに使われているんですね。
てっきり、食パンからだと勘違いしていました。
とても勉強になりました。
ありがとうございました。
これからも、コメントいただけると幸いです。
私も今日買ってみたので今晩食べますが高尾さんは食べていかがでしたか?
他にもセブンイレブンブランドのものを食べてみるとわかりますがかなりおいしいものが多いと思います。
製造のプロとリサーチのプロがタッグを組んでおいしいものを作るのかなと思います。
単純にうまければ売れると思うのですがどうなのでしょう?
ゆうじさん
コメントありがとうございます。
実はまだなんですよ。
先日買おうかと思ったのですが、5袋入りしか売っていなくて、断念しました。
バラで売っているセブンもあるので、今度買って食べてみようかと思います。
できれば、マルちゃん正麺と食べ比べしたいですね。
セブンの場合、総菜の麺で商品開発のデータをかなり持っているんでしょう。
このデータと東洋水産の技術力・製造能力が合わさると、ゆうじさんのおっしゃるとおり鬼に金棒ですね。
食品の場合、美味しければ売れるというよりも、美味しいことが大きく露出すれば売れる方が多いと認識しております。
これだけいろんな商品が世にあると、まずは存在を知ってもらうだけでも大変。
だから、露出の大きさ(特に店内)はかなり重要だと思います。
一点指摘させて下さい。
「セブン&アイ・ホールディングスは16日ー(中略)東洋水産に製造を委託し」と記事にあるのに対し、
「(東洋水産は)既存の販売先に、既存商品の代わりとなるPB商品を売る必要が本当にあるのでしょうか。」と表現するのは不適切ではないでしょうか。
Qさん
コメントありがとうございます。
ご指摘はごもっともです。
セブンが東洋水産に委託しているわけで、東洋水産はそれを受けるか受けないかになります。
よって、「売る」という表現は不適切かもしれません。
ただ、もし東洋水産がマルちゃん正麺の売上を最大化したいならば、カニバリしかねないセブンの金の麺は邪魔な存在になります。(プレミアム袋麺が増えることで、プレミアム袋麺市場全体が大きくなるということもありますが。)
よって、「売る必要がない」という表現を使いました。
正しくは、「PB商品の製造を受ける必要が・・・」の方がいいと思います。
表現の難しさを実感しました。
今後とも、変な表現がありましたら、どしどしご指摘くださいね。
よろしくお願いいたします。
甥が醤油、私が味噌好きなんです!
毎週、買うのですがどっちも揃ってることがすくない。
二人とも大好きなのに…
せめて3周回に一回は揃えられないのかなぁ…