アサヒのドライプレミアムがスーパードライよりも安い理由とは?
先日、御影のイズミヤに行ったところ、とある不思議な値付けを発見しました。それは、スーパードライのプレミアム商品・ドライプレミアムよりもスーパードライの方が高いというものです。実際の価格差は2円だけですが、容量が同じ商品でプレミアム商品の方がレギュラー商品よりも安いというのは、実に不思議です。
その理由は、恐らく鮮度の違い。ドライプレミアムは5月製造だったのに対し、スーパードライは8月製造。早く売り切りたいから、レギュラー品よりも安い値段に設定したのでしょう。恐らく、期間限定の特売価格だったような気がします。
5月製造のビールがまだ店頭に並んでいるというのは、恐らく珍しいこと。その店舗で調べた所、5月製造の商品はドライプレミアムだけでした。そこで、ドライプレミアムの売れ行きが芳しくないのではないか、という推測が沸き起こります。
ただ、世間一般には
ドライプレミアムの売れ行きは好調
と言われているので、ここで矛盾が発生します。ちなみに、日経グループの記事で、「ドライプレミアム」と検索すると、
2位はアサヒビールの「スーパードライ ドライプレミアム 350ml×6缶」。これまで贈答品用として人気があったものを一般向けにも販売して人気を集めた。(2014年7月28日付 日経MJの2014年上期新製品売れ筋ランキング )
アサヒグループホールディングスは22日、2014年1~6月期の連結純利益が前年同期比25%増の193億円だったと発表した。従来予想は同12%減の135億円だったが、一転して増益となる。高級ビール「ドライプレミアム」の販売が想定以上に好調で利益を押し上げた。(2014年7月23日付 日経新聞朝刊)
アサヒは12月末までに「ドライプレミアム」を500万ケース(1ケースは大瓶20本換算)販売する。昨年夏に贈答用で発売。今年2月にコンビニエンスストアやスーパーの店頭での通年販売を始め、360万ケースを売る予定だった。(2014年6月12日付 日経新聞朝刊)
という景気のいい記事ばかりが検出されます。
そこで、改めてアサヒビールの親会社のアサヒグループホールディングスのIR資料から、ドライプレミアムの売れ行きを調べてみました。アサヒグループホールディングスは、ビール系飲料の銘柄別月次売上高を発表しています。そのデータのよると、ドライプレミアムの1月~8月の販売数量は、
325万箱
です。ただ、この中には贈答用も含まれています。今年の2月から市販されたので、昨年実績を引くと、市販分の販売数量を予測できます。その数字は、
264万箱
になります。市販分販売予想数量の月別推移を見ると、以下のようになります。
【ドライプレミアムの2014年販売推移】
2月(18日~) 98万(総販売数量98万)
3月 29万(同29万)
4月 18万(同18万)
5月 30万(同30万)
6月 32万(同50万)
7月 33万(同67万)
8月 27万(同33万)
この推移から、販売数量が頭打ちであることがわかります。恐らく、5月から販売数量が大きく増加すると見込んで、増産したのでしょう。しかし、期待にそぐわず、販売は急ブレーキ。だから、9月になっても5月製造分が販売されていたのかもしれません。
ちなみに、スーパードライの月別販売数量(ギフト含む)と比べると、その失速ぶりがよくわかります。
【スーパードライの2014年販売推移】
2月 580万
3月 930万
4月 685万
5月 815万
6月 900万
7月 1085万
8月 995万
8月は天候不順とはいえ、スーパードライの販売数量は6月よりも上回っています。しかし、ドライプレミアムの販売数量は6月よりも減少。レギュラー品よりもプレミアム品の方がギフト需要は高いとしても、市販予想数量でも下回っています。ドライプレミアムは、5月から販売数量が頭打ちというのが、現状ではないでしょうか。
しかも、スーパードライと比べると、ドライプレミアムの販売数量は、30分の1未満。アサヒビール全体にとって、ドライプレミアムの販売は、そう大勢に影響しないものと言えるかもしれません。日経の記事では、さもドライプレミアムの売れ行き好調が、アサヒグループホールディングスの業績に好影響を与えていると読み取れますが、アサヒグループホールディングスにとって重要なのは、年間1億ケース以上を販売するスーパードライの売れ行きに他なりません。
スーパードライとドライプレミアムを合計したスーパードライ合計を見ると、もっと面白いことがわかります。1~8月までの累計で、販売数量は昨年比99.4%の前年割れ。ビール酒造組合のデータは最新版で6月までの累計しかないので、その数値と比較すると、
ビール組合 100.2%
スーパードライ全体 102.4%
なので、業界平均よりも売れ行きは良好。しかし、ドライプレミアムでプレミアム市場を開拓したというよりも、スーパードライから他社のプレミアムビールへのシフトを防いだという方が、正しい表現かもしれません。ドライプレミアムは、攻めるというよりも守る商品なのかもしれません。
何が言いたいかというと、プレミアムビール市場が伸びていると言っても、それを牽引しているのは、突出した販売量のプレモルただひとつのブランドではないか、ということ。サッポロビールのエビスにしても、その販売数量はプレモルの約半分であり、そのエビスを超えるのに苦労しているのが、ドライプレミアムなのです。ちなみに、スーパードライは、プレモルの約5.8倍売れています(数量ベース)。プレミアムビール市場は、それだけ小さな市場なのです。小さい市場ですが、参入したからには、それなりの宣伝広告・販促が必要です。アサヒのドライプレミアム単体の損益を考えれば、あれだけテレビCMを打ち、店頭販促を行えば、利益率はそう高くない可能性は高いです。少なくとも、発売した今年に限っては、損得抜きで戦略的にコストを掛けていることは間違いないでしょう。アサヒにとって、収益拡大というよりも、プレモルへの顧客流出阻止が、ドライプレミアム発売の目的のように思えてなりません。
そう考えれば、市販用プレミアムビールを販売しないキリンビールの戦略に納得できます。わざわざコストを掛けてプレミアムビールという小さな市場に参入するよりは、既存ブランドの一番搾りに力を注いだ方が、費用対効果は高いと考えたのではないでしょうか。
☆今日のまとめ☆
アサヒのドライプレミアムは、マスコミ報道とは異なり、販売数量が頭打ちしており、苦戦模様である。
実際、プレミアムビールの市場は、通常のビール市場よりも規模がかなり小さく、プレモルの一人勝ち状態。
費用対効果を考えれば、プレミアムビール市場に参入しにキリンの戦略は、理に適っているとも言えるだろう。
WSJを読むには、基本的な英単語を知っていなければなりません
- 今日のこぼれ話☆
キリンが地ビール事業を始めましたが、こちらにも興味津津。
結構売れるんじゃないかと、予想しています。