吉野家が牛丼を常時値下げした本当の狙いとは?
By gochie*
吉野家が牛丼を値下げするニュースは、その価値が高いのか、NHKのニュース番組でも取り上げられたようです。
吉野家ホールディングス(HD)は10日、牛丼並盛りの価格を18日から常時280円に値下げすると発表した。現行より100円安い。2月の米国産牛肉の輸入規制緩和で仕入れ価格の下落が見込めるためで、同社を含む牛丼チェーン大手3社の通常価格が並ぶことになる。(2013年4月11日付 日経新聞朝刊)
すき家・松屋も値下げするので、牛丼の値下げ競争再燃ということになるのですが、吉野家は他2社とは少し違います。それは、期間限定の値下げではなく、通常価格を下げるからです。よって、業績へのインパクトは、他2社よりも大きくなります。
この値下げに対して、吉野家ホールディングスの安部会長は、次のように説明しています。
10日に記者会見した吉野家HDの安部修仁会長は「今回の値下げで当初は来店客数が約3割、売り上げは約2割増える」との見通しを示した。(同日付 日経新聞朝刊)
この説明には驚きました。というのも、100円の値下げと言えども、他社と同額になったに過ぎず、これだけで客数が3割も増えるとは思えないからです。ちなみに、吉野家の月次実績を見たところ、直近で既存店の客数が3割増えた月は、2007年3月と5月。ただ、この客数増は、牛丼の販売再開や販売時間の拡大によるもの。(PDFが開きます)当時は、BSE問題で牛丼が販売中止になったため、吉野家の牛丼が、かなり希少なものとして注目を浴びました。値下げとは比較にならないぐらい、インパクトは大きいのです。しかも、今回の値下げは、どちらかというと牛丼業界全体のイベント。吉野家だけが注目を浴びているのではありません。単なる値下げだけで客数が3割も増えるとは、到底思えません。
ただ、吉野家にも値下げを行う事情があるのも事実。どうしても、他社に追随しなければならない事情は、月次の既存店実績から見えてきます。
[売上]2012年10月以来6ヶ月連続で減少
[客数]2012年1月以来15ヶ月連続で減少
[客単価]2012年5月以来11ヶ月連続で増加
※2013年3月まで
客数の減少トレンドに、歯止めがかかっていないことがわかるかと思います。深刻なのは、1年以上続いているということです。通常、1年前の数字が悪くなれば、比較する数字が低くなるので、前年比はプラスになりやすくなります。しかし、吉野家は違い、2年連続で同月比減少しているのです。客離れの深刻さがわかるかと思います。
一方で、客単価は増加しています。2012年4月には一時的にマイナスになったのですが、客単価の増加トレンドは、2011年9月から続いています。つまり、客単価の増加トレンドは、1年以上続いているのです。焼鳥つくね丼などの高単価商品が好調に売れており、消費者の支持を得ていることがわかります。
このように考えれば、吉野家が直面する一番の問題は、客数をいかに増やすかとういことがわかるかと思います。そこで、他社が値下げをすると、さらに客数が減る可能性が高いので、さらなる客数減の回避のために値下げを断行したのです。ただ、不思議なのは、なぜ期間限定にしなかったかということ。そのヒントは、昨年のニュースにヒントがあるように思えます。
吉野家ホールディングスは10月、「築地吉野家 極(きわみ)」という店名の実験店を東京都板橋区と江戸川区に2店舗出店した。(マイナビニュースより)
吉野家ホールディングスは、牛丼並盛りを250円で提供する店での販売価格を2013年1月1日から30円値上げする。業界最安値で大幅な客数増を狙ったが、期待ほどは客数が増えず採算が合わないと判断した。(日経新聞電子版より)
吉野家は昨年10月に、250円で牛丼を販売する牛丼専門店をオープンしました。メニューを牛丼に絞ることで、オペレーションを簡素化し、その分を牛丼値下げの原資にするという計画でした。さらに、値下げをすれば、大きな客数増が期待でき、薄利多売により十分ペイすると考えたのです。しかし、その目論見は外れ、オープン3ヶ月後には値上げを余儀なくされることに。敗因は、日経が書くように、客数が思ったほど伸びなかったということに尽きます。つまり、値下げしても大した客数増にはならなかったのです。
この教訓があれば、今回の値下げでも大きな客数増は期待できないはず。それでも、値下げしたのは、客数の減少トレンドをどうしても止めたいという、背に腹を変えられない事情があるからに他なりません。逆に言えば、客数さえ増やせれば、既存店売上は好転すると考えているのだと思います。
客単価の上昇トレンドと客数の減少トレンドから、焼鳥つくね丼などの高単価メニューを注文する常連客が固定化する一方で、牛丼・牛鍋丼などの低単価メニュー目当ての顧客が減っていることが読み取れます。
【吉野家の客数分析】
高単価メニューのユーザー数→変わらず
低単価メニュ-のユーザー数→減少
客数は減少しているものの、高単価メニューのリピーターはしっかり獲得できていることがわかります。それだけ、高単価メニューは来店客の支持を受けているのです。一度食べてもらえれば、必ずリピートしてもらえる、と吉野家は考えているのではないでしょうか。この「一度食べてもらう」人を増やすために、客数増がどうしても必要なのです。
そこで、期間限定ではなく常時値下げをすることにより、280円の牛丼で集客し、高単価メニューで収益を上げることを、狙っているのではないでしょうか。
【吉野家の狙い】
280円の牛丼=集客商品
焼鳥つくね丼などの高単価メニュー=収益商品
この戦略があるからこそ、常時値下げという業績悪化になりなけないリスキーな方法を採れたのだと思います。逆に言えば、この戦略を実行するには、期間限定値下げではダメだったのです。
☆今日のまとめ☆
吉野家が牛丼を常時値下げしたのは、牛丼で集客し、高単価メニューで収益を上げる戦略があるからではないか。
リピーターになりやすい高単価メニューの販売が増えれば、収益は安定しやすくなる。
マーケティング・ビジネスのヒントに関するブログも書いています
WSJを読むには、基本的な英単語を知っていなければなりません
☆ 今日のこぼれ話☆
松屋ではすでに値下げが行われていますが、ディナータイムを見る限り、混んでいるようには思えません。
牛丼の値下げに、消費者が慣れているように感じますね。
☆ 気になる商品☆
ビール系飲料の新商品が目白押しです。
カロリー減でローラを起用しているということは、新たな顧客獲得を狙っているということでしょうか。
今度買ってみますね。